特集01
広く人びとを巻き込んだ経済的潮流が展開されつつある地域。
ローカル、ナショナル、グローバル、各ステージを貫くダイナミックな視野と実践を培います。
県立広島大学大学院 経営管理研究科
教授 吉川成美
地域資源とは水・大気・土壌、森林、河川、海洋などの自然資源に加え、人が関与することで成立する田畑、森林、漁場、さらには生態系サービスの担い手である小さな生き物から人間まで、地域に存在する「ソーシャル・コモン・キャピタル(社会的共通資本)」の構成要因を意味します。
これまでの経済活動はそれらの資源を「所有」することで行われてきましたが、これからは「共有」、つまりシェアすることで資源を活用する新しい発想のビジネスが求められます。大規模資源開発は自然を開発することでダメージを与え、結果的に大規模な環境問題を引き起こしてきました。その反省を踏まえて、経営形態の改変に加え、いかに社会的共通本を活用・創成し、社会的・文化的な諸条件を組み合わせたビジネスにしていくかを学ぶのが地域資源マネジメントです。ひろく人びとを巻き込んで大きな経済的潮流が形成されつつあります。
今、新規就農者たちが、農村部を舞台にした新しい農のビジネスを展開しはじめています。それは、自身が理想とするライフスタイルを実現するとともに、消費者との交流、異業種やさまざまステークホルダーとのコラボレーション、子どもから大人までを対象にした幅広い教育サービス、ITやさまざまテクノロジーなどの要素を含めた「地域資源+α」としてのより持続可能な事業や、年齢や性別に拘らない唯一無二のアントレプレナーシップが生まれています。また一方で地域の社会的共通資本をどのようにマネジメントするかを学ぶことは、それに関わる全ての人が持続可能な保全・管理・利用を共有することであり、それはまた喫緊の課題でもあるクライメート・チェンジや災害などのリスクを共有することでもあります。これにより環境と持続可能な経営、さらにはレジリエンスな経営とは何かを学ぶことができます。そのためには地域へのフィールドワーク(地の学び)を重視します。
広島は歴史的にみると、他とは異なる文化の発展をたどってきた地域です。かつて海上交通の要衝として栄えた瀬戸内が、今も独特の文化を守りつづけていることや、人類初の被爆から復興し、世界へ平和を発信してきたことなど、過去と現在をつなぎ、未来をつくってきた実績があります。地域資源を活かしたビジネスを考える上で、その地域の歴史や文化を知ることも重要であり、文化として地域をどうとらえるかという視点が求められます。地域に根ざし、地球共通の課題に取り組み、個性の強いイノベーションを繰り返すことで、より共感・実感の伴うビジネス思考を身に付けていくこと、他のMBAにはない切り口だと考えています。
地域資源を対象にしたマネジメントにも、近年の経営戦略には組織内の働き方と生き方の多様性と個々のライフスタイルの重視は欠かせません。同時に地域資源のエコシステム全体を共有する多様なネットワークが必要になります。環境ビジネスの分野では、大企業が行うビジネスとは異なり、地域から世界へ発信するイノベーションを学んでいきます。従来のスクラップ&ビルド型の経営から一変した自然資源を活かしたビジネスは、多様な人とのネットワークによって大きく広がっていくビジネスです。限りある地域資源をめぐって世界共通の課題を解決する社会技術を開発していく面白さを学ぶことで世界共通の課題へ取組むことの面白さを学ぶことで、より実感のあるビジネス思考が身につくとともに、世界観が大きく変わることにつながることでしょう。これまでの一極集中型の都市構造から成る経営のあり方を越えて、大企業、行政、NPOまたは個人事業者まで、クロスボーダーな課題発見、課題解決能力、事業構想力を生かしたビジネスの展開に役立ちます。
社会的共通資本は、一つの国ないし地域が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境、社会的装置を意味する。社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営されるものであり、それは経済的、歴史的、文化的、社会的、技術的な要因に依存して決められる。社会的共通資本の範疇には、自然資本(環境)の他に、社会的インフラストラクチャーと制度資本がある。
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